1. なんで頭を冷やすの?
2. 冷却してみると
3. マニフォルドの観点から
1. なんで頭を冷やすの?
今回紹介する論文は10年以上前にNature で掲載された論文、"Using temperature to analyze temporal dynamics in the songbird motor pathway"(日本語では「鳴鳥の運動経路の時間動態の温度を用いた解析」)です。この論文は、ゼブラフィンチという鳥のうたのメカニズムについての研究なのですが、それを調べるためになんと鳥の脳を冷やしてみるというのです。
![]() |
| ゼブラフィンチ |
ではもとの問いにもどって、なぜ頭を冷やすのか。それは脳の働きを遅くするため。脳を部分的に冷却するとその脳部位のはたらきが遅くなることがわかっています。では、もしうたのタイミングを制御している脳の部位を冷却したら鳥はゆっくり歌うようになるのでは?この論文を読んだときその発想にびっくりしたのですが、さらにびっくりしたのはそれが本当にうまくいったことです。
2. 冷却してみると
| フィンチの脳とペルチエ素子(Long & Fee, 2008) |
その結果、HVC を冷やすとうたは遅くなるがRAを冷やしてもうたに変化は見られないことが分かり、HVC がタイミング制御を担っている重要な証拠となったのです。しかも目を見張るべきは HVC を冷やした時の結果です。なんと HVC を阻害した結果としてうたがめちゃくちゃになることはなく、うたの音声構造が保存されたまま時間だけ伸ばされたのです。これは HVC でのうたの管理メカニズムが連鎖構造をとっている、つまりうたの各要素が連続的に管理されていて、この要素を歌ったら次にこのフレーズを歌うというのが非常に細かいタイムスケールで管理されている、ということを示唆しています。
3. マニフォルドの観点から
この実験結果だけでもとても興味深いのですが、この実験はマニフォルドの観点からも重要な意味を持っています。マニフォルドは多様体とも呼ばれる数学の概念ですが、ニューロサイエンスにおいては、ある行動をしているときにそれに関わるn個のモジュール(ニューロンであったりアンサンブルであったり)の活動具合をもって形成されるn-次元空間上での局面を表します。ある行動をしているときの脳の状態をリストアップしたものといってもいいでしょう。このマニフォルドの理解の重要性は今注目されていますが(例えば "Navigating the Neural Space in Search of the Neural Code")、鳥の脳の冷却実験はまさにこのマニフォルドの理解と密接なかかわりを持っています。
| マニフォルド(Jazayeri & Afraz, 2017) |
本実験では脳の冷却により自然では起こりえないような反応速度になっているためon-manifoldではありません。ただ、さっき説明したようなn-次元空間ではなく、時間軸をたしたn+1-次元空間で考えてみると、時間軸だけずれているものの、各時間においてはon-manifoldであることがわかります(各時間においての脳の状態は自然環境でも生じている状態です)。このようにoff-manifoldではあるものの、最大限マニフォルド上での変化を行わせているため、きれいな結果がえられたとも言えるのです。
引用
Jazayeri, M., & Afraz, A. (2017). Navigating the neural space in search of the neural code. Neuron, 93(5), 1003-1014.
Long, M. A., & Fee, M. S. (2008). Using temperature to analyse temporal dynamics in the songbird motor pathway. Nature, 456(7219), 189-194.

0 件のコメント:
コメントを投稿